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片麻痺の作業療法 QOLの新しい次元へ |
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中里瑠美子 著
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ISBN 978-4-7639-2139-0 |
A5判 192頁 2015年6月19日発行 |
定価 2,860円(税込) |
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片麻痺の患者は変容した世界に生きている.その経験を変えていく臨床とは.
「目をつぶると半身が消えます」「目で見ていても自分の手のような感じがしません」 このように語る片麻痺の患者さんに対して,作業療法士はどのような“治療”を提供することができるでしょうか.本書は,外から観察できる動きだけでなく,患者さん自身の身体感やまわりの世界の認識の仕方を治療的に解釈し,その特異的な動きを発現させる脳のはたらき方を変えていくことをめざす臨床の具体的な提案です.症例を通して観察のポイントや治療の展開の仕方を詳しく解説します. 片麻痺の「治療」を模索している作業療法士にとって明確な指針となりうる,臨床のテキストです.
◉本の帯より◉ 本書は患者さんのリアルな身体認識に対する現場の作業療法士の挑戦だ. −−身体はただ動けばよいというものではない.人間が世界を感じ、世界に働きかけるために身体は存在する. 麻痺した人間は世界とのつながりを失ってしまうともいえる. ではどうすれば取り戻せるのか−−. 坂井克之(認知神経科学、医学博士)
◉書評より◉
本田慎一郎(守山市民病院,作業療法士)
本書のサブタイトルの「QOLの新しい次元へ」が実にいい.本書の内容を読むと著者のサブタイトル「QOLの新しい次元へ」に込めた気持ちが伝わってくる. 片麻痺になった患者に対する一般的な医療機関で行われる作業療法は,あらゆる代償的手段も取り入れ,1日も早く日常生活動作に関連する能力の再獲得を重要視した介入をすることが多い. それはなぜだろうか.患者が「失ったもの」は,手足が動かないということが問題ではなく,「社会的な役割を含めた自分自身を失った」状態が問題だと考えているからではないだろうか.機能回復が必ずしも達成できなくても,片麻痺患者のQOLを実現することは可能である. 従来からQOLの概念は,人の生活を物質的な面からのみでなく,精神的な面も含めて質的にとらえるという考え方があるので,「できなくなった動作」に対する代償的アプローチはある側面からみると的は射ている. しかし本書で紹介されているような「目をつぶると半身が消える」,「俺の膝下がない」,「なんだか自分自身がぼやけている」という片麻痺患者の訴えを聞かされた場合,セラピストの心は揺らぐ.なぜ揺らぐか.それは代償的アプローチではそのような訴えを解決することは困難な問題だからである.このような患者の内実は,「患者から語られなければ,決してわからない世界」であるが,実はこの内実こそが,患者一人ひとりのQOLの達成には必要だと最近思う. 少々前置きが長くなったが,これが冒頭に書いたサブタイトルの「QOLの新しい次元へ」が実にいいと書いた理由である. 本書を読んで感じたことは,片麻痺患者は,単なる手足の麻痺以上に,自己「感」を喪失した状態にあるということである.患者一人ひとりのQOLの実現は,十把一からげにできない以上,さまざまな介入が必要である.著者のようなOTによって,患者は自己「感」を取り戻していったことがよくわかる.これこそがQOLを達成できる治療の一つだと感じた. 本書の面白さを2,3紹介しておきたい.ひとつがOTであれば誰でも知っている関節可動域の検査や運動麻痺の検査をしながらでも,「ちょっとした視点を加えることで患者の内的世界を知ることができ,その内実を拾い上げながら治療展開は可能ですよ」という流れで構成されている点である.「なるほど」と思わされる場面がいくつもある. そして,中盤から後半は症例の治療展開が実に具体的に書かれている.片麻痺患者一人ひとり,生きてきた来歴は当然違う.この「あたり前」の事実は脳損傷後の患者の内的世界が一様ではないことを同時に意味するが,実際の私たちの治療に片麻痺患者の来歴は活かされているだろうか.著者は非常に丁寧に患者の内的世界を拾い上げ,共有し,適切な訓練の設定をしているように思う. さらには半側空間無視等,高次脳機能障害に対する臨床のアイデアも紹介されているし,著者は患者本人がイメージしやすい言葉を使っている.その言葉は患者との対話,かかわりの中で抽出して用いている.この点は「さすが」である. 最後に,本書のタイトルが「片麻痺の作業療法」だけだと,「これが作業療法か?」と思う読者も少なからずいるだろうが,サブタイトルの「QOLの新しい次元へ」という意味を反芻しながら読み進めてほしい.そうすると,著者のOTとしての思いと願いが伝わってくるはずである.ぜひ手に取っていただきたい. 「作業療法ジャーナル Vol.49 No.10 2015年9月」より
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