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豚足に憑依された腕(単行本)

高次脳機能障害の治療

形式・仕様:
単行本 電子書籍

片麻痺、半側空間無視、嚥下障害、失語、失行、慢性疼痛などさまざまな患者さんとの治療経過を一貫した理論で記した画期的な一冊。

著者 本田慎一郎
ジャンル リハビリテーション(共通)
理学療法
作業療法
言語聴覚療法
認知神経リハビリテーション
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出版年月日 2017/11/10
書店発売日 2017/11/10
ISBN 9784763921437
判型・ページ数 A5 ・ 594ページ
定価 6,050円(税込)
在庫 在庫あり

この本へのお問い合わせ・感想

「口の中で食塊が消える」「私の手じゃない」などと訴える患者の
詳細な病態分析と治療の記録

片麻痺、半側空間無視、嚥下障害、失語、失行、失調、慢性疼痛…
セラピストにとって、患者さんを治したいという思いと治療ができるということとの間には、時に大きな壁が立ちふさがります。しかし著者は、治療を諦めることはありません。試行錯誤しながら、その患者さんと共に臨床をつくりあげ、結果を出し、しかし反省点は次に生かすという形で日々臨床に臨みます。

本書はさまざまな障害の患者さんの「治療」を、一貫した治療理論に依拠して行ってきた一人のセラピストによる記録です。
著者の臨床は、脳科学を柱として認知心理学、教育学、言語学、現象学など人間を理解するための多くの学問の精華を選りすぐり障害の治療(リハビリテーション)という観点に立って構築された認知神経リハビリテーションの理論に拠っています。
そこに足場を置くことで、これまでどちらかといえばそれぞれの対応をされてきたさまざまな障害について共通の論理性をもって病態分析をし、一人一人の患者さんに対する、まさにオーダーメイドといえる治療を組み立てていきます。
リハビリテーションでは従来から詳しく行われてきた外部観察・動作分析はもちろん、主に患者さんとの対話(患者の記述)から本人の経験している世界(内部観察)の意味を推し量り理解しようとすることによって、一体なにが起きていて、なぜそうなるのかと不思議に思う理由を求め、関連知見の助けを借り、治療の糸口を見つけていくのです。

何を見て、何を聴き、どう病態を捉え、いかに治療を組み立てるか。試行錯誤の様子や転機をもたらす患者さんとのやりとり、治療仮説の検証まで、その思考(治療)過程が丁寧に記されています。
著者の思考過程、臨床の展開は謎解きのようなおもしろさがあり、患者さんの確かな変化(機能回復)がその治療の方向性の適切さを物語っています。本書の臨床風景は、これまでにない「高次脳機能障害の治療」であり、患者さんが望みうる現在であり明日でもあります。そしてこれは治療の記録であると同時に、一人一人の個性溢れる患者さんの物語でもあります。

「治療」を諦めない、共に歩むすべてのリハビリテーションセラピストに読んでいただきたい画期的な一冊です。

 

◎書評◎
宮本省三(高知医療学院、理学療法士)
神経心理学と高次脳機能障害学の礎を築いたルリアは、「神経心理学は、脳損傷のせいで対処が難しくなったり、時には困惑するほど奇妙に見える世界で歩んで行こうと奮闘している、一人ひとりの患者についてのものだ」と述べている。
サックスはルリアに手紙を書き、励まされ、神経疾患に侵された症例が語る不思議な言葉を分析し、『左足をとりもどすまで』、『レナードの朝』、『妻を帽子とまちがえた男』などの世界的なベストセラー本を書いた。
また、認知神経リハビリテーションを提唱したペルフェッティは、リハビリテーション医学における「科学と意識経験の融合」を強く主張している。人間は自動的に動く機械ではないし、物言わぬ生物的器官の集合体でもない。人間は意識経験を生きる。それは外部から計測機器を用いて客観的に分析できない。もっと患者の「身体の声」を聴く必要がある。臨床には一人ひとりの身体、物語、人生がある。
したがって、生きる人間に対するリハビリテーション治療は科学的(客観的)であると同時に「ロマンチック・サイエンス(主観的な一人称言語記述の科学)」を内包したものでなければならない。

本書からはルリア→サックス→ペルフェッティというロマンチック・サイエンスの歴史的な足跡が読み取れる。そして、その旅の延長線上に著者の本田慎一郎がいる。
この本を読んで、私は胸を痛打された。ここには苦悩する患者たちと真剣に向き合う“セラピストの姿”がある。一人ひとりの不思議な病態に寄り添う“セラピストの魂”がある。回復を患者と共有する“セラピストの喜び”がある。つまり、ここには一人のセラピストの圧倒的な情熱と臨床力がある。
これほどの情熱を込めて、自分自身が生きてきた臨床を書いた本を、私は知らない。患者への想い、患者との対話、詳細な病態分析、濃密な思考力、治療のアイデア、技術、効果、個人的な才能と努力などが結晶化している。その真の価値を見抜いているのは患者自身であることがわかる。その臨床現場を読者に伝えたいと心から願い、一冊の本を完成させた編集者の想いも伝わってくる。

一方、そんな本田慎一郎の臨床とは裏腹に、現代社会において科学はまるで宗教のように信奉されている。リハビリテーションの未来が新しいロボットやartificial intelligence(AI)に託されようとしている。そうした科学の幻想に支配された臨床では、ロマンチック・サイエンスは必要ないと判断されるに決まっている。
だが、新しい時代が始まろうとしている。もう一つ別のリハビリテーションの未来があるのだ。本書は21世紀の臨床を生きる若いセラピストたちが読むべきだ。きっと、その先に人間の笑顔がある。
「理学療法ジャーナル Vol.52 No.2 2018年2月」より

◎パンフレット

 

 (1刷*2018.5.16)

01 豚足に憑依された腕-「自分でも本当にとり憑いているのかと鏡で見たんです」
・はじめに
・症例A
・経過(発症後3か月の介入時から)
・想像を超える患者の内的な世界へ:「豚足にとり憑かれた」
・麻痺側の左腕が豚足に憑依されたという経験の奥底
・症例Aから学んだこと:「学習」による経験の改変
・ここまでのまとめ(豚足が消えるまで)
・物語には続きがある─咀嚼・嚥下の内なる世界
・摂食機能評価(介入18か月目)
・摂食・嚥下障害の病態解釈と治療仮説
・模擬食塊を初めて使った訓練
・症例Aの記述と考察
・物語には、まだ続きがある─症例Aに会いに行く
・追跡インタビュー(自宅訪問)
・インタビューで明らかになったこと
・改めて考えさせられたいくつか…

02 右側の左側は左側-半側空間無視の食べ残し
・はじめに
・症例B
・訓練を構成する5つの視点
・病態解釈と治療仮説
・半側空間無視の訓練へ…
・約5か月介入した結果
・まとめと反省:残された課題
・症例Bはなぜ、なかなか立てなかったか?
・バラバラでも各パーツは描けている?
・半側空間無視と身体表象

03 「空間」の左右と「におい」の左右-半側空間無視と嗅覚無視
・はじめに
・症例C
・全体像を捉える
・嗅覚無視の話
・嗅覚と味覚は関係があるのだろうか
・匂いの認知に方向性はあるのだろうか
・嗅覚検査の実際
・結果の検討
・症例Bの場合
・残された課題

04 「口の中で食塊が消えるんやわ」-口腔内左半側空間無視の可能性と着衣障害そして妄想…
・はじめに
・症例D
・作業療法初日:対象との接点をつくる
・OT介入2回目:手の巧緻性を取り戻す試み
・OT介入3回目:自己身体へ注意を向ける
・OT介入4回目:半側空間無視の世界を語り始める
・嚥下に関連する口腔器官の検査へ
・驚愕の記述
・患者の記述(意識経験)の解釈
・総合的な病態解釈
・訓練:食塊の存在性と空間性の再構築
・最終的な嚥下訓練の様子
・全般性注意と無視の変動要素という観点
・結論として
・残された課題
・物語には続きがある─服がうまく着られない
・訓練仮説:イメージの操作
・訓練道具の選択:箱(構造の理解から)
・箱から服へ
・残された問題:妄想的思考について
・妄想的思考につながるいくつかの仮説

05 「僕の舌の先はないんですよ」-8年ぶりの妻とのクリスマスディナーまで
・はじめに
・症例E
・初回時:“軽症”とはいえ…
・なぜむせるのか(認識論的視点)
・どのように食べる(飲む)のか(認知的視点)
・病態解釈(舌の表象の変容と正中線の偏移)と訓練
・パフォーマンスの変化
・再評価結果
・症例Eから学んだこと
・症例の意識経験と私の意識経験
・摩訶不思議‥‥そして症例特有の病理?
・投げかけられた謎の輪
・この物語にはちょっとだけ続きがある

06 何をすべきかはわかる。どうすればいいのかがわからない-失行症患者と電動髭剃り
・はじめに
・症例F
・髭剃りから失行の本態を考えてみる
・病理のまとめ(解離と錯行為)
・病態解釈(情報の統合あるいは変換不全)
・失行症の訓練へ
・症例Fから学んだこと
・当時解決できなかったが非常に重要な点

07 「見ないと足が床についている感じがしないんやわ」-非麻痺側で立てないわけ
・はじめに
・症例G
・臨床思考の基礎(“何かを知るための3つの手段”)
・評価の実際(患者の世界の全体像を知るために)
・ひとつの驚きの記述
・更なる評価 兼 訓練(“3つの手段”と行為のエラー)
・情報変換の障害
・最終的なパフォーマンスは…

08 見ることは言語で読み取ることではないか?-失語症患者の世界の理解へ
・はじめに
・症例H
・視覚情報の量と質について
・見ることと読み取ること
・発症8か月の回復状態(介入7〜8か月目)
・新たな問題
・プラスアルファの観察点
・会話にみる回復の“指標”
・視覚情報における注意と言語の関係

09 失行症(?)で目が合わない…-「意図的に見る」という行為の異常に関するリハビリテーションは可能か?
・はじめに
・症例I
・初日:目が合わない…
・次の日:目の失行…?
・行動の観察から症状を推定する
・作業活動の観察から更に症状を検討する
・行動観察からいえること
・神経心理学的な視点からの暫定的なまとめ
・目の失行症と右半側空間無視へのアプローチ
・右側の身体無視と上肢の失行症へのアプローチ
・介入から約4か月後のパフォーマンスの変化
・残された興味深い謎

10 「健側は健側にあらず」を認知過程から考える-片麻痺に高次脳機能の障害をみる必然性
・はじめに
・症例J
・入院中の特徴的なエピソード
・5つの視点から考える
・病態解釈と訓練仮説
・介入6か月の結果
・症例Jから学んだこと
・振り返りと反省

11 「8年間変わらないものがそう簡単に治りますか!」-片麻痺患者が再び泳げるその日まで
・はじめに
・症例E
・訴え1:「うまく字が書けないんです。すぐ疲れてダメなんです」
・訴え2:「 口まで運ぶ手前でこぼしてしまう。エプロンをつけないと‥‥」
・訴え3:「 自転車に乗ると右へ右へ寄って子供を轢きそうになります」
・訴え4:「足が重いんですよ」
・訴え5:「もう一度泳ぎたいんです」
・症例E自身による意識経験の記録

12 整形外科疾患の本質的問題の在り処-患者の意識経験が教えてくれること
・はじめに
・症例K
・丸い化粧ビンを丸く感じない
・運動器の障害の本質─そして脳との関係性
・症例L
・幻肢痛に対する、義足を健肢として活用したミラーセラピー
・考察:幻肢痛が消失した理由について
・興味深い点
・症例M
・どのようにすればいいかわからない
・情報と代償運動そして学習
・システムアプローチ
・症例K、症例L、症例Mから学んだこと

13 「触れられると思うだけで痛いです」-触れない慢性頸部痛患者への介入
・はじめに
・症例N
・痛みという症状の解釈
・訓練の展開(視線方向認知課題)
・結果(介入11か月後)
・学んだことと残された課題

14 「揺れる手は私の手じゃないみたい」-失調症状の回復と、残存した不思議な症状
・はじめに
・症例O
・失調症状に関する初回評価
・5つの視点から
・病態解釈
・失調症に対する訓練
・結果
・不思議に思った症状の数々…
・再会して…

15 リハビリテーションと羞恥心と自己意識について
・はじめに
・症例P
・症例Pから学んだ自己意識なるもの
・人間の学習と自己内対話
・自覚の手前にある「気づき」
・訓練の経過の一部
・「気づき」と自覚の円環
・情動、とりわけ羞恥心のリハビリ上の意味
・結果
・症例自身のリハビリを介した意識経験
・対話(二人称の対話と自己内対話)

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